製品に昆虫が混入していたとの消費者からのクレームを受けましたが、製造メーカーの責任でしょうか?

商品に昆虫が混入している場合は、たまにあります。当検査室でも、過去にハエ、ゴキブリなどの昆虫が混入していて消費者からのクレームとしてあがってきたのを見たことはあります。
ですが、果たしてその昆虫が製造工程で混入したものか、あるいは出荷後に何らかの原因で混入したのかわからない場合もよくあります。
PL法の施行もあり、消費者保護の観点からしますと、ちゃんとした根拠がなければ、いちおう、製造者が責任をもたなければならないようになっているようです。 
まず、商品を開封する前に発見したような場合、つまり、シールされた袋の中に昆虫がいたというような場合は、生きているいないは関係なく、製造者の工場で混入したものと断定することができますが、逆に、包装フィルムなどを破いたのち、家庭で調理の際、あるいは口の中に入れた際に異物に気がついたというような場合、ものによっては、ほんとうに最初から製品に入り込んでいた形跡のある場合もありますし、まったくその形跡もない場合があります。
最近、”製造者責任”という言葉が悪用され、製品に昆虫がはいっていたから......という虚偽のクレームを起こすことで、生産者に金品を請求されるような悪質な消費者も増えておりますが、実際に、商品に混入していて、それを目にした場合は、非常に不衛生ですから、そうしたものを販売していた販売店に”怒り”をおぼえられ、販売店に対して、非常に強行に責任を問われる場合もあります。
昆虫の工場内への侵入防止には、電撃殺虫機、誘蛾灯などの物理的除去、薬剤噴霧などによる化学的除去あるいは、工場への昆虫の侵入路の遮断など各種の方法がとられていますが、クリーンルームのような工場でないかぎり、こう言ってはなんですが、多くの中小企業の食品工場では、そうしたものを100%水際で防止できているとはいえない状況です。
ただ、混入していた昆虫の種類によって、どういう場所からどういう経路で工場に侵入してきたかという推測ができる場合もあります。
仮に、そうした異物が発見された場合には、生産者は全力を尽くして、納得のできる調査結果と改善報告を消費者に示し、誠意ある対応をすることが求められます。
【カタラーゼ検査について】
 しかしながら、どうしても、製造現場ではいったと思えない昆虫や、不可解なクレームもありますので、まず、製造過程で混入したものか、消費者の手元にある段階で混入したのか調べてみる必要がある場合があります。(これは、生産者の立場にたった考え方かもしれませんが、最近、余りにも悪質なクレームが増えてきているのです。)
 まず、その調査方法の1つとして、よくカタラーゼ反応が利用されます。 カタラーゼという酵素は嫌気性菌以外のほとんどすべての生物が持っています。
 この酵素は過酸化水素を水と酸素に分解するので、昆虫を解体し、3%過酸化水素水を添加してみると、昆虫内のカタラーゼのはたらきで、過酸化水素が分解され、酸素が発生して激しく発泡するのが確認できます。

2H
O ―――――――→ 2HO + O
        ↑
         カタラーゼ


 しかし、加熱工程を経過した昆虫は、熱によりカタラーゼ活性が失われてしまいますから、過酸化水素水を添加しても上記のような反応はみられなくなります。
 このことを利用して、異物昆虫を調べることによって、製造の段階で混入した(加熱処理をうけた)のか、あるいはそうでないのかということがわかります。
 ただ、あまりにも昆虫が死滅してからの時間が長いと、熱を加えていなくてもカタラーゼ反応が起こらなくなる可能性もありますので、注意が必要です。