2度目の初詣
酒蟷螂の酒酔いの懺悔記の中でも、つい最近の出来事であり、私自身がもっとも痛快に語ることのできる想い出のひとつになってしまった。   正月に飲めばいいのに、待てなくて大晦日の日に久しぶりに帰郷してきた妹夫婦と実家で酒盛りをしたときの話であるが、妹の婿さん(義理の弟だが、年上)も酒が好きで、いつも酒蟷螂のよい相手である。仕事が終わった開放感と久しぶりに肉親たちと飲む酒の味についつい酔いしれてしまい、おやじと私と妹婿と3人で2升と5合くらい飲んだ頃、除夜の鐘がなった。  今年は小学年になった息子と除夜の鐘を聞きながら初詣にゆく予定にしていたので、一足先に我が家へ帰っていた家族に電話を入れると、息子らはもう寝てしまったとのことだった(そうである)。 仕方なく、酔いどれ男3人で初詣にゆくことになったようである。(当人は覚えていないので、あとから聞いた話を合成しているのである)                                                     
家をまっさきに出た酒蟷螂は2メートル以上も道幅がある家の前の道がまともに歩けず、そのまま実家の前に広がる水田に落ちてしまい、靴も靴下も泥だらけになって、再度、おやじの靴下と靴を借りて履き替えた上で、出発したらしい。.............             

 

相当な酔い方だったらしく、(酒蟷螂はあとで、あれは人にもらった古い酒だったから、あんなに酔ったのだと弁解している)まともに歩いていなかったようであり、妹婿と肩組んで朝代神社へ向かったようである。途中、おやじも走っているタクシーのバックミラーと接触するほどフラフラとしていたらしい。 結局、妹婿が一番マシな歩き方をしていたようである。  しかし、朝代神社へゆくまでに幾度となく倒れ、その度に眼鏡を落として、神社につく頃には眼鏡がグチャグチャになって(もちろんレンズは両方無くなってしまっていたし、神社の石の階段で転げたものだから、顔を怪我して、おまけにつまずいて有刺鉄線になんども体当たりしたものだから、顔や手足に相当な傷を負ってしまった。                                     
母にもらった賽銭の袋ごと賽銭箱に投げつけてしまったものだから(せっかく母が小銭を3千円くらい入れてくれて私に手渡したのに)、境内の他の賽銭箱に入れるお金がなかったようである。 神社から帰る頃には顔半分は血だらけになっていたのだが、何を思ったか、妻の実家へ新年の挨拶にゆかねば、と思い、挨拶に行ったらしいのであるが、妻のおとうさんも初詣に出かけられて不在であり、 妻の実家には妻の親戚のおじさまやおばさまが来られていたようである。 半分血だらけの顔を見て、おじさまが顔をふいてくれていたそうである。 (このあたりで、わたしは妻の実家にも名をとどろかせてしまうことになってしまった。)  なんにも覚えていないというのは強いものである。 それから、おやじと妹婿を連れて、大晦日の1時過ぎに開いていたスナックAを訪れ、しばらく飲んでいたが、いつものママがたいそう愛想が良くないのと、酔いが回って、体が限界点に達したのだろう...金をおやじに渡して、そのまま家に帰ったのだった(後にスナックのママに聞いたが、顔半分血だらけのお客にどうして愛想良くできるのか、てっきり喧嘩でもしてこられたのかと思っていたとのこと)                    
家へ帰ると、妻がまだ起きて待っていた。   血だらけの顔を見て、喧嘩をしてきたのかと聞くが、そのときにはもう何がなんだかよくわからなかったので、 「覚えがない。実家で今まで飲んでいて、途中で、一件だけスナックに寄って帰ってきた。途中でこけたのかもしれない」と答えていたようである。                                           
翌日は意外にさわやかな元旦の朝であった。 起きるなり妻から、「鏡をみてきなさいよ」と言われ、鏡を見ると、名誉の負傷で左目の下20センチほどに丹下左善のような傷ができていた。  しかも、眼鏡は無く、正月の間は予備のサングラスをかけて過ごすことになった。(正月から開いている眼鏡屋さんもなかった)お雑煮を食べてから、実家へ挨拶に行き、家族で初詣でに行くことにしたのだが、妻が「あなた、きのうはこんな靴下はいてたっけ」と言ったのを覚えている。                                                    
 両方の実家へゆき、大晦日の話を聞いて初めて、昨夜のことを知らされ、自分が今、2度目の初詣にゆこうとしていることもその時初めて気がついたのであった。 それにしても、妻の実家では、あの酔い方はふつうではなかったともっぱらの評判になってしまった。                                               
 ちなみに、眼鏡のレンズは4日の日になって、買い物をしたとき、財布の小銭入れから出てきたのである。   フレームはグチャグチャだったが、レンズが2枚とも無事だったので(酔っていても大事な物はよくわかっていたのだなと感心する)眼鏡屋へゆくと完全に直してくれ、新しい眼鏡を購入しなくてもよかったので幸いであった。