市民の公僕を傷つけた人
市役所の職員さんと出張したことがあった。民間企業に働いている自分としては汽車の中で酒をのんで騒ぐことはそう珍しいことではない。 しかしながら、市民の公僕としての公務員の立場というものがあり、その行為が一般市民の迷惑になるようなことがあれば、ただちに市役所、市長あてに直訴がゆくわけである。                                
東京での仕事を官民一体となってやり終えて、おいしいビールを飲んでいる内に気分がハイになってきた。 そこで、市役所の職員のみなさんの労をねぎらうつもりで、市の職員にもビールをすすめたのだが、どうもいまいち乗らない。  そこで、恥をしのんで歌を唄うことにした。 だが、私が歌を唄うほどに市の職員たちの姿が一人、また一人と私の前から消えていった。   まさに寂しい思いであった。  わたしは、行政の人たちにも民間企業の慰労会はこうするんだ...って楽しいところをみせつけてみたかったのであるが、どうも、最後まで乗りが悪かったようである。                                                  
翌日、市役所へ行き、職員に「昨日はご苦労様でした」と挨拶を受け、わたしも「こちらこそ世話になりましたなあ」と答えたのであるが、どうも、職員たちの顔つきがこわばっているように思えたのである。                                               
後日(半年ほどしてから)、ある若い職員に聞いて、心臓が凍った。                
「辻さん、今だから話しますけど、東京の出張から帰ってきた翌朝、課の職員全員が市長から直々に訓示を受けたのですよ。 市の職員たるものが市民の利用している列車の中で騒ぐとは何事か?以後、そういった行動は慎むように....とね、市民から苦情が出たらしいですよ辻さんが酔って,○○課長だとか、○○係長だとか呼びつけていたから、市役所のメンバーってことがわかったみたいですよ.....」                                 
 行政マンでなくとも、ひとに迷惑をかけるような行動は慎まねば....とつくずく思った次第である。  しかし、本当の事を知っていたら、翌日、市長は市民の私に何と言ったのだろう?