ある夜の風景

学生時代の想い出の中でも鮮烈な想い出がある。 大学の近くにスポーツ公園があったのだが、そこで新入生の歓迎コンパをおこなった時のことである。  我々の新入生の時も、大変な歓迎を受けて、最後は農家のリヤカーにのせて先輩の下宿(比較的広い部屋を借りている先輩の下宿)へ運ばれ、ヒーヒー、ゲロゲロ言いながらならべて寝かされたものである。  しかし、自分が上級生になったら、そういうことは下級生にはしないでおこうという優しい気持ちは全くおこらなかった。  
                                     
  最初は定番のビールのストロー早飲み競争である。  紙コップにビールを注いで、よーいドンでストローで吸って、はやく吸い終わった者から座るのである。 遅い者は周りを囲んでいる上級生のブーイングの的になる。   これを5回くらい繰り返すと、たいていのものは酩酊に入る。(ストローでビールを飲むと、なぜ早く酔うのか今でもわからない)それから、公園の芝生の上で走り回り、転げ周りのゲームを行って、あとは女子大生による色気たっぷりのお酒おすすめサービスを受けて、ウハウハで飲みまくるのである。 これで、半分はゲロゲロと吐いてしまうし、眠りに入る者や暴れ回る者(私はこの部類であった)が出てくる。                                                           
  わたしの3回生の頃、それがエスカレートしてしまい、誰か一人が公園の池に酔っぱらって飛び込むのをみて、次から次へ下級生を池に投げ込んでしまった。  夜になり公園の外灯の下には全身びしょぬれの溺死死体のような下級生が数十人並べられた。  まるで、アウシュビッツの大量虐殺の風景のような殺伐とした風景になってしまった。   酒蟷螂も酔いながら、ここまでする予定はなかった....と一瞬、ひるんだことを覚えている。  まるで死体のようになった下級生を農家から借りてきたリヤカーに運び込み、我々の友人の下宿まで運ぶのである。 2,3人しか一度に積めないので、最後まで残された下級生は春とはいえ、まだ肌寒い夜露の中、2時間ほどは芝生の上に転がしておかれたわけである。   
  
自分たちがやったこととはいえ、上級生の負担は大変なもので、飲み方を知らないものが大酒のんだものだから、夜通しゲロゲロやっている者や、ほんとに死んだかもしれないというほど、静かに眠っている後輩たちの世話をしなくてはならかったからである。     顔を上向きにさせると、吐いた汚物が食道に詰まって窒息死する可能性があるので、絶えず顔の向きを横向け、下向けにしてやったり、やたら水を欲しがる後輩に冷たい井戸水を汲んできてやったりと、後始末の仕事もほぼ半日に及んだ。 たまに、酒の弱い先輩もいて、下級生と同じようにフーフー言っていたが、これはほとんど無視されていた。