朝帰りの通夜

朝帰りの私を待っていたのは、下宿のおじさんの死であった。
不謹慎にも、学生生活を謳歌していたわたしにとっては、あまりにバツの悪い出来事になってしまった。   下宿のおじさんの職業は警察官であった。 私はどういうわけか上級生に人気があり、毎日のように下宿に誘われ、そのまま夜を共にし、安酒をあおっては人生を語り、そのまま眠り、大学の講義に出席したあと、次の先輩の下宿で1日を過ごし、酒を飲みそして眠り、風呂も入らずに丸3日をよそで過ごし、久しぶりに下宿へ朝、帰ってくると、玄関に黒い靴がたくさんならんでいた。
  しかも、普段は老夫婦と私(間借り人)だけの寂しい家に、たくさんの人のざわめきがする。 親戚の方々の喪服姿を見たとき「しまった」と思った。 誰かが亡くなったのだ。....奥から悲しみの表情で出てこられたおばさんに「つじさん、主人が..」と聞かされたときは、一瞬頭が回転せず、なにを言ったか、覚えていないが、お線香をあげてからあわてて公衆電話でおやじに連絡したのを覚えている。 この下宿も、おやじの戦友の紹介で、間借りさせていただいていた手前、おやじには恥をかかせるわけにはゆかない。 翌日、おやじが新幹線で下宿までやってきてくれたのでホットしたのを覚えている。 しかし、通夜の朝まで3日間の間、下宿に帰ってきていなかったことはどうしてもおやじに言えなかった。