布団が重たいよ
一升酒を呑んでも、あまり変わらない豪傑は世の中にたくさんいるだろうが、酒蟷螂の場合は、5合くらいで最終変身してからはあまり変化がすくない。
いや少なかったと言っておこう。  やはり、青年時代と40路を越えた今では強さも違うのではないかと思うからである。
 ちょうど、学生の追い出しコンパで、黒田節ならぬ、一升酒を皆の前で飲み干さねばならない伝統行事(?)があった時のことである。  
数分で一升を呑むという体験はしたことがなかったので、本当に不安であった。  のどがゴクゴクと音をたてて久しいのに、盃は少しも傾かない。  おそらく、半分以上呑んでから、あの平べったい盃は徐々に傾きはじめるのである。                                                      
  ほんとうに、この後おれはどうなるのだろうという不安がよぎったのを覚えている。 だが何とか飲み終えた時、今回有終の美を飾って、 「酒蟷螂は一升呑んでも平気だった」という伝説をつくりたくなってきた。
 同期の他の連中の中には呑んでる最中に吐いてしまった奴もいた。それから1時間ほど会場にいたが、その間は平静を保つことができた。 
 しかしながら、さすがにそれ以降の記憶がないのである。卒業生は、この会では途中で見送られて帰されるのであるが、後から聞くと、なにも問題を起こさずに会場を後にしたということだった。   
 当時、下宿から自転車で会場へ行っていたので、自転車にのって帰ってきたのだろう? 翌朝、布団の中で目を覚ましたが、ふとんがいつになく重たいのである。             
「さて、きのうはどうして帰ったのだったっけ?布団は俺が自分で敷いたのだろうか?でも、頭はあんまり痛くないし、さわかな朝じゃないか。でもやけにふとんが重たく感じるな」と薄暗い朝の心地よいまどろみを享受しながら考えていた。
  目を覚ましてみると、 枕元にはどこかの自動販売機で買って来たのだろう。日本酒のワンカップが封も切らすにおいてあり、(まだ呑もうとおもっていたのだろうか?)、どういうわけか掛け布団の上に寝ており、敷き布団をかけて眠っていたのである。  どうりで布団が重たかったはずである。  
 お酒も急激に飲むと、吸収されずにおしっこで出てしまう分が多くなるのだろうか?一升酒でこれほど快い朝を迎えた想い出は今のところないのである。