わが愛妻の復讐
酒に酔って、これまでの章では書けなかったことがたくさんある。若いとき、酒に酔って人と喧嘩した翌日の後悔の念、酔った勢いでキスを迫って女性にいやがられて翌日バツの悪かった想い出......とにかく、本当に後悔すべき失敗も数多く、いつまでこんなことをやってるんだろうと無性に悲しくなるときがある。
しかし、酒蟷螂は少なくとも人に希望を与えたり、人に笑いを与えたり、救いを与えたりしてきたのではないかと自己弁護もしてみたりもすることが多い。
 酒蟷螂にはそれなりの活躍するシチュエーションがあって、酒が入ると常にそうなっていたわけではないことを弁護しておきたいと思う。
最近では、酒蟷螂の行動に対して、拍手喝采する人はどんどんと減り、まさに四面楚歌の時代に移りつつある。
特に最近では、この酒蟷螂への大変身が家庭不和の原因になってゆく恐れさえ抱くようになっているのである。
 昔はこうした酒がある意味では男の象徴だったこともあるのではないだろうか?...私は大酒のみにプライドさえ抱いていたのに、最近では特に若い人たちの間では何の自慢にもならない単なる酔っぱらいとしか見られなくなった事に本当に一抹の寂しさを感じてしまう。
酒は酔うためにあるのだが、酔うとわからなくなることも多い。

年末の忘年会が続いたある日のこと、私は床につくや大いびきをかいて熟睡にはいった。
夜中に寝返りをうった瞬間、手がやわらかい何かに触れ、その後モーター音がしたかと思うと、いきなり、耳元で「ママーおいしいケーキを食べさしてえ」という声がして、びっくりして目を醒ますと、目の前に人形の顔が見えて、もう恐怖で何がなにやらわからなくなって、大声で叫んで人形をつかんで投げとばしてしまったのである。
どうやら、毎日のように私が夜中に帰ってきて、大いびきで眠れない日々をおくってきた妻が私に復讐を企てたことがわかったのであるが、その日私が眠った際に、ふとんにおしゃべり人形をいれておいたのである。
滑稽なことに私は一晩、そのときまでお人形と一緒に眠っていたことになるし、夜中に突然目の前に人形の顔があるというのも人間にとってはかなりの恐怖を感じさせる要因となってしまうということもわかった。
しかしながら、復讐の罠をしかけたはずの妻は私の恐怖の叫びで目を覚ますことになり、復讐のつもりが結局自分の災いになってしまったのである。しかし、妻が腹がたったのは、私が夜中にこれだけ大騒ぎしたのに、人形を放り投げると、しばらくして、また大いびきをかいて眠り込んだことだったらしいのである。安眠妨害....これは逆の立場だとほんとうにつらいものがある。
妻には悪いことをしたと最近反省している。
酒を飲んで帰ってきた日は、やっぱり、玄関でひっくり返って眠るのが一番いいようだ。(^_-)