芦原温泉の舞鶴飛行隊
芦原温泉一泊の旅にでかけた某社の青年会の研修(?)旅行で、またしても、所長は酒蟷螂に変身したようである。折しも、仕事を途中で終えて、出発は午後3:30であった。外は突然の大雨であったが、バスの中は出発と同時に大宴会場と化していた。
舞鶴から敦賀インターまでの約2時間の間に参加者のうちの酒飲み5人組で缶ビール2ケースを飲んでしまっていた。途中何度もトイレ休憩をして芦原温泉に到着したのだが、あまりさいさいトイレタイムを設けてしまったものだから、宴会の時間までに旅館に到着できず、すでにコンパニオンが待機して今か今かと待ちわびていた。(待っていなかったかもしれないが?)
とにかく、荷物を部屋において、さっそく宴会を始めた。
宴もたけなわの頃、K氏が「馬をやろう」と言い出した。ルールはすでに舞鶴から考えてきたという.....とにかく、馬になる男たちはパンツ一丁になって、背中にコンパニオンを乗せて四つん這いで走り回り、部屋を往復し、ゴールまでの早さを競うというものであった。3頭ずつの2レースを予定しており、各レースの勝者を賭けるというものである。
もちろん、馬は目隠しをされて、コンパニオンは男性たちがしめていた着物の帯を男性の首にかけて、馬乗りになるのである。ヨーイドンのスタートとともに各馬いっせいにスタートしたが、目隠しをした馬たちは互いにゴールがわからず、しゃにむに走っているうちにふすまに激突し、3枚ほどの障子が一斉に隣の部屋に倒れて飛んでいった。倒れた襖のむこうに目を丸くしたよその団体のお客さんの顔があった。
それで、襖の前に今度は人を立てておき、レースをやり直すこととなった。今度はうまくターンをして勝者が決定したのだが、第一レースで優勝した馬(男性)の膝が畳でこすれて、たいそうな擦り傷で真っ赤に腫れあがっているのを見て、第2レースの出場馬が誰もいなくなった。第2レース出場馬の中には所長も選ばれていたのだが、あとの馬がすべて棄権したので、不戦勝になってしまった。結局、レースが不調に終わり、掛け金はすべてコンパニオンに渡すことになってしまった。
今回の旅行では私は無傷で済む筈であったのだが.......神は私だけを放っておいたりしなかった。
宴会場からカラオケホールに移り、しばらく、歌や踊りをしたあとで、皆で今度はやっと温泉に入りにゆくことにした。露天風呂に入り、酔いも少しとれて元気になってきた。
馬を考えたK氏が、突然、大浴場に飛び込んだ。 腹打ちをして胸からおなかにかけて真っ赤っかになったので、皆で大笑いをした。K氏は腹打ちすると気持ちがいいというので、調子に乗って次は私が腹打ちをした。
お腹から胸にかけて真っ赤になって、体の表面がジーンときた。酔っているものだから、これが無性に気持ちがよいことがわかった。
K氏と私は露天風呂に入っている仲間に声をかけ、「お前たちもぜひやって見ろ、いい気持ちだ」と一人一人半強制的に風呂への飛び込みをさせた。
全裸で次から次へ風呂場に飛び込む中年男の姿はまさに「舞鶴飛行隊」であった。
そのうち、腹打ちも飽きてきたので、私が、飛び込みに技をつけることを提案した。最初は1回転ひねりだったが、エスカレートして、1.5回転ひねりなどをして風呂場に飛び込んだりしていた。
ちなみに風呂にはほかのお客様も3人ほどおられたようだが、この舞鶴飛行隊の姿をみて、すぐに風呂からあがってゆかれたらしい.....このことは唯一酒を飲めない友人から後で聞いた。
そうするうちに飽きてきて、部屋にもどって酒の飲み直しをすることにした。仲居さんに頼んで、部屋に酒とビールを山ほど運んでもらって、茶碗で酒をがぶ飲みしているときだった。仲居さんが「お兄さん、腕から血が...
」というので、見てみると全く痛みが無かったので気付かなかったのだが、着物の左裾が血で真っ赤になっていた。 それで、やっと先ほど風呂場で飛び込みをしたときに着水後、風呂の底にあたって、肘が裂傷したことに気がついた。 仲居さんが応急処置をしてくれて、バンドエイドを3枚ほど張り付けてもらい新しい着物に着替えて、また飲み直すことになった。本当に酒を飲んでいると傷の痛みが全くわからなかった。
翌日、起きると腕だけでなく、右膝がたいそう痛かった。
おかしい、昨夜は俺は馬をやらなかった筈なのに.....と考えるうちに、私が何度も風呂への飛び込みをし、しかも1.5回転ひねりなどをした時に、風呂の底に何度も体をぶつけていたことが原因であることがわかった。 「頭でも割ってたら洒落にならなかったよな」と友人たちも口をそろえて、私の顔をみて、駄目だこりゃ!と言わんばかりの朝の表情だった。
舞鶴に帰ってから、翌日、体のあちこちに痛みを覚える人が多くなった。彼らも皆、風呂であちこちを打撲して帰ってきたのである。あっぱれ、舞鶴飛行隊!!?
帰ってから、家族に嘘を見抜かれ、正直に報告したら、娘に「お父さん、子供でもそんなことしないよ」と言われてしまった。