人だかりの中で

思い出すと、昨日のようであるが、まだ結婚して間近のころ、会社の青年会で馬鹿のように飲んだ後、家に向かう前に酔いすぎて道ばたに寝ころんでしまったことがあった。自分ではそれほど、酔っていないとおもっていて、少し横になったら楽になるだろうと思っていたのだ。(舞鶴でも有名なK寿司の前で)しかし不覚にもそのまま眠ってしまったのである。
ざわめきが気になるころまでどのくらいの時間が経過したのかは忘れたが、「おい、こんなところに若い子が倒れている」と言ってK寿司の隣の旅館から出てきた一団が私の周りに集結していたのである。 そのざわめきに気がついた時は私の顔の周りには10人以上の顔が円を描くようにグルグルと回って見えた。
これはいかんと気力を絞って起きあがった私は「おっちゃん、わしは生きとるで」と叫び、再び国道を横切って、自動販売機の横の公衆電話から家に電話を入れたのだった。自分としては、酔ってはいながら、こんなにたくさんの他人に醜態を見られたことに対する羞恥心は残っていて、ぐるぐると地球が回るあの苦しさと闘いながら、起きて歩きはじめたのである。
電話で場所を聞いた妻は(当時は新婚だったから、妻も優しかった)「そこにおるんやで、動いたらあかんよ」と念をいれたそうである。
私も相当酔っていて、しんどかったのだろう、じっとしていると地球が回る。 ふらふらと歩いているほうが楽だ。妻が迎えに来てくれたときには、その場所にはいなかったらしく、妻も家のほうへあきらめて帰る途中、港湾道路のあたり(現在の舞鶴港とれとれセンター付近)で長身のよっぱらい男が国道をさまよっているのを発見したという。
それ以降、酒蟷螂は人前で眠ることは絶対にしなくなった。それなりに酒飲みのプライドがあり、これなど、プライドが傷ついた唯一のにがい思い出である。