鮮血としろのうんち
ある日、指から鮮血を垂らして歩いて帰ってきた夫の姿を見て、恐怖の声をあげたのは妻であったし、一番驚いたのは本人であった。 自分の指を見て、酔いもさめてしまったのが印象的だった。 親指と人差し指の間の柔らかいひだのようなところが、ざくろのように裂けて、そこから血がにじみ出ていたのである。                                  
  最近、酔っぱらうと珍犬しろを相手にしつこく遊ぶ癖がある。 珍犬しろにとって、酔っぱらったご主人様ほど扱いにくいものはないと思っているだろう。 犬は敏感で、酔っぱらって帰ってくると最初はしっぽを振っているが、口から吐かれるあのイヤなアルコールの香りとご主人の狂ったような赤面の面と焦点の合わなくなっている目を見て恐怖を感じるようであり、しっぽを下げて困ったような顔になる。  酔うと、そんな珍犬しろにしつこくつきまとい犬にも嫌われるようになっているのがよくわかり、よけいにかまいたくなるのである。              
 「おまえだけは、おやじを裏切れないだろう」という確認をするために、どんなときも服従を強いるのが本当は人一倍寂しがりやのおやじの醜態の原因になっているのである。 そんなある日、よろめいて、犬小屋の屋根に手をかけた際、トタンの端が手につきささったのである。(翌日、解明された) 犬小屋から玄関まで10メートルの間に直線的に鮮血がポタポタと落ちていたのである。 酔っていて痛みを感じなかったのだが、 さすがに翌日、病院へ行って縫ってもらった。 お医者さんに正直に原因を述べたら声を出して笑われてしまった。                                                 
さらに、ある日の朝、妻が目を覚ますと玄関から異臭がするので、どこからその臭いがするのかをしばらく探っていると、どうも玄関の方からにおいがしてきたそうである。           
すると、玄関が私の靴の足跡でいっぱいになっており、よく見ると、靴の裏にいっぱい泥がくっついていて、そこからにおいがしてくることから泥のように見えたのは実は犬の糞であることが判明した。   どうやら、昨夜も遅く帰ってきて、しろと戯れている時、しろがウンチをしていたのに気がつかず、その上を何度も踏みつけて靴の裏にウンチをたっぷりつけてから家へ帰ってきたようである。 翌朝、しろの小屋の周りを見るとしろのうんちがひらたくなっており、私の靴の足跡が無数についていた。おまけに千鳥足なものだから、玄関の周りはしろの糞だらけになっていて、部屋に臭いが充満していたのである。 これには妻も激怒し、私はこっぴどく叱られ、その日の朝の仕事は玄関の掃除から始まったのである。