酒蟷螂らくだに変身す

学生のコンパでは、ついつい気分がハイになり、酔っぱらうとなにをしてもいいものだと錯覚してしまった。
学生の学部のコンパが学生会館で行われたときのことである。20畳ほどの畳の部屋が10畳ずつ仕切になっていたのだが、コンパの最中に、酔っぱらって、その仕切の「かもい」にぶら下がってちょうど鉄棒のように体を振って暴れ回っていたときだった。 
突然、信じられないことに私の体の重みで「かもい」がはずれてしまった。 わたしの体はかもいと共に空中に放り出され、宴会の料理やビール瓶、コップなどのおかれていた宴席の上に横向けに落下することになった。
 学部の教授らも目を丸くしていた。ビールを飲み交わしていた机の上に6尺の体が上から降ってきたのである。ビール瓶がまるでボーリングのピンのように倒れ、料理の皿はふっとび、まさに大惨事と化してしまった。大学の学生会館のあの「かもい」はあれからどうなったのかまるで記憶に残っていない。 

 だが、翌朝、わたしの体は変調をきたしていた。 
小便をすると真っ赤な尿が出てくる。(血が混じっている)しかも、しばらく二日酔いで寝ていると、どうも体が水平にならない。
せなかにふとんがひっかかってるように思えてしかたがない。  
むくっと起きて、鏡にうつすと、当時今よりも痩身であった我が身の片方の背中が腫れ上がっているではないか。 
まるでらくだのような背中になっている。 昨日、宴会の席に落下したとき、上向けにたっていたガラスのコップが垂直に背中に当たり、一瞬、めりこんだようである。(割れて体に刺さらなくて幸運であった。)
 土曜日のコンパであったので、月曜日にでも病院へゆくことにしていたが、月曜日の朝、放尿すると色が元に戻ったので、病院へ行かなかったことを覚えている。 
それにしても、自業自得といわざるを得ないこの事件は酒蟷螂の数多い負傷記録の中でもインパクトが強かったため、20数年たった今でも、昨日のことのように思い出してしまう。