傑作その1 煮干し

その1煮干しは不思議なぜダシをとるのに最初からグラグラ煮るのか

舞鶴地域では「だしじゃこ」とよばれている煮干しであるが、よく似たものに田造り(ごまめ)というものがある。 煮干しは3〜5%の塩水の中で、15分ほどグラグラと煮られたあとに乾燥するが、煮出しの時には相当な旨み成分が水に溶けだしてなくなってしまう。 それなのに、料理をするときには煮干しはよいダシを取るのに欠かせない。 また、逆に田造り(ごまめ)はそのまま、天日に干して乾燥するので、旨みが抜けていないと思えるのに正月にはさらに濃い味付けをしておせちとなる。 実際に煮干しと田造りをかじってみても、味の差は歴然としており、煮干しの方がはるかに旨みが強い。 このように全く逆の現象がなぜ起こっているのかを考えるとき、先人の経験のすばらしさに脱帽するのである。 味の成分としては、旨みの他に酸味、苦み、甘みがあるのだが、旨みについては味の構成成分の内のグルタミン酸、イノシン酸が柱となっており、その2物質が旨みの相乗効果を示す。 グルタミン酸とイノシン酸が共存することで、それぞれの旨みが数倍から数十倍になるのである。  田造りは素干しなので、酵素はそのまま残っており、天日で干している間にATPが分解されて、旨みのイノシン酸を通り越して、旨みのない物質まで変化してしまうことが知られている。 一方、煮干しは煮出しの時に旨みのかなりの部分が失われてしまうが、熱により酵素が失活し、ATPがイノシン酸にまで熱分解された段階で、それより先に進まず固定化される。 その為に残ったグルタミン酸とイノシン酸が相乗効果を示し、相当の旨みを感じるのである。  しかし、スルメイカは素干しであるが、たいへん美味しい。 イカは独特の分解経路を持っており、イノシン酸を形成することなくアデノシン〜イノシンへのバイパス経路を経て分解してゆくので、むしろイカの旨さはグルタミン酸と甘みの強いアミノ酸の味ということになる。