傑作その3 ふな寿司

その1ふな寿司は不思議なぜ暑くなる土用の丑に漬け込むのか

実はこれが寿司のルーツといわれているのである。私がお世話になっている琵琶湖周辺だけに残っていた加工技術である。 いま、1尾が数万円することもあるというゲンゴロウブナの鰓と鱗を除いて、内臓を針金のような道具で引き抜いた後、腹に塩を詰めて、塩とフナを交互に置いて重石をする。 2か月ほど漬け込んで、土用の丑のことに取り出し、水洗いをして今度は白飯と麹をまぜたものを腹や目などにすきまなく詰め込み、また白飯とふなを交互に置いて重石をする。 2〜4カ月の間漬け込んだあと、フナの部分だけを食べる。  これがもともと出来上がった発想というのは、魚の保存ということだったのではないかと思われる。 当時、魚を保存するためには塩漬けにするか、乾燥するかしか方法がなかったのである。  ただ、塩だけで、夏場も腐らせずに保存する為には塩分濃度で30%以上である必要があった。これでは辛くて食べられない。 塩漬けした後、白飯と麹につけるということは、しかも、これから暑くなる土用の丑を漬け込みの開始の時期に選んだというのは学問的に見てもすばらしい意味を持っている。 浸透圧の関係で、塩分がフナから白飯に移ってゆくのであり、普通なら、フナが腐ってしまうのだが、暑い時期だからこそ、白飯が乳酸発酵を開始するのである。  その結果、生産された乳酸あるいは、若干のアルコールがフナに浸透してフナが腐らずに独特の風味をもった食品になるのである。 しかも、漬けている間に塩分はそれほど強くなくなり、肉質も酸でやわらかくなっているのである。